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● キノコの話 ●


菌類は巨大な生物群

 その昔、キノコやカビが属する菌類は植物の一種とされていました。生物のうち動けるものが動物で動けないものが植物、と2つに分けてしまえば、キノコやカビは植物に入れるしかなかったのでしょう。植物の中で光合成ができない下等なもの、というふうに見られていたわけです。しかし、生活様式や生物界で果たす役割を考えると、植物とは全く違った集団であると考えなければなりません。植物は光合成によって太陽エネルギーを有機物として蓄積する「生産者」、動物は植物が作った有機物を使って体を作り活動する「消費者」、そして菌類は動物や植物が蓄えた有機物を分解して元に返す「分解者」という役回りを演じています。この3つのどれが欠けても、生物界のサイクルは成り立たなくなるのです。また種の数で見ても、菌類はわかっているだけで数万種、まだ確認されていないものはその数倍あると言われ、植物に匹敵する巨大な生物群です。というわけで、現在では「動物界」「植物界」と並んで、「菌界」という分類をするのが一般的です(この他に、細菌などのグループと藻類のグループを別に設けることが多いようです)。
 菌類の体が「菌糸」と呼ばれる糸状の組織でできていることは言うまでもないでしょう。そのような菌類の中で、胞子をばら撒く器官として大きな菌体(子実体、子実果などと呼ばれる)を作るものをキノコ、作らないものをカビと便宜上呼んでいるわけですが、この2つには実は区別はありません。よくわからないような小さな子実体を作るものもありますし、大きな子実体を作るものでも、菌全体の大部分を占めるのは、子実体以外の、まさにカビと呼べるような菌糸の集まりなのです。


キノコの仲間たち

 キノコやカビには実に多種多様な仲間があります。ここで菌類の細かい分類の話をするつもりはありません(そもそも菌類の分類の仕方はどんどん変わって来ているので、あまりはっきりしたことは言えません)が、大雑把にどんな風に分けられているのかを見ておきましょう。
 以前は、菌類の仲間は「藻菌類(そうきんるい)」、「子嚢菌類(しのうきんるい)」、「担子菌類(たんしきんるい)」の3つに大きく分けられていました。「担子菌類」は、「担子器(たんしき)」または「担子柄(たんしへい)」と呼ばれるこん棒型の器官の先に胞子を付ける種類で、「子嚢菌類」は担子器を作らない代わりに「子嚢」と呼ばれる細長い袋を作り、その中に胞子ができる種類です。残念ながら担子器も子嚢も顕微鏡を使わなければ見ることができない小さなものですから、目で見ただけで担子菌か子嚢菌かを見分けることはできません(図1)。とは言っても、シイタケやマツタケなどのいわゆるキノコらしい形のキノコやサルノコシカケの仲間などはみんな担子菌で、子嚢菌はほとんどがちょっと異型のキノコですから、およその見当はつきますが。

図1

図1 担子器と子嚢


 担子器や子嚢はほとんどが図に示したような形をしていて、それぞれ4個、8個の胞子を作ります。ただし、やはり例外や変形はつきもので、担子菌であるキクラゲの仲間では、いくつかの部屋に分かれた違う形の担子器を作ったり、担子胞子の数が4個ではなくて2個であったりする種類がありますし、子嚢菌である酵母も、体全体が袋になって、中に4個の子嚢胞子を作ります。
 これらの担子菌と子嚢菌については、その中の細かい分類は別にして、今でもそのまま認められているようですが、ややこしいのは「藻菌類」に分類されていた種類です。以前は、ミズカビの話で紹介したミズカビの仲間やケカビなどが藻菌類の代表的な種類とされていましたが、今ではミズカビなどは「菌類」という分類から追い出されて「原生生物」という別のグループに入り、残った種類も、一つの括りではなくて複数のグループに分けられたりしています。けっこう面白い性質を持った種類なのですが、これらの仲間は子実体(つまりキノコ)をつくりませんから、ここではこれ以上深入りするのはやめておきます。
 担子菌や子嚢菌は、普通の植物がオシベとメシベを使って受粉するのと同じように有性生殖をします(もちろん花粉を作るわけではありませんが)。これに対して、一つの個体が細胞分裂でどんどん胞子を作って増えて行く無性生殖だけしか見られない種類があり、「不完全菌類」という別のグループに分けられています。これらの仲間は、有性生殖をしないのではなくて、単に見つかっていないだけと考えられていますが(中には本当に有性生殖をしない、あるいはその能力を失っている種類もあるかもしれませんが)、何せ普通にカビとしてお目にかかるアオカビやコウジカビなどの大部分が属しているため、特殊な例として目をつぶるわけにも行かないのです。このグループもやはりキノコは作りませんので、説明はここまでにします。


キノコの養分の取り方

 キノコも生物である以上は、何とかして養分を取らなければなりません。植物のように葉緑素で養分を作り出すことはできませんから、どうしても他の生き物が蓄えた養分を拝借することになるわけですが、それにはいくつかのパターンがあります。
 よく目にするのは地面からニョキッと生えているものですが、これには、地面の奥深くで生きた木の根とつながっている場合と、生きた木とは関係なく生えている場合とがあります。生きた木の根とつながって生える代表格がマツタケやシメジですが、これらのキノコでは、木の根を菌糸が包んで「菌根」と呼ばれる共同体を作り、そこから菌糸が地表に向かって伸びてきて、あのキノコを作っています。養分は木の根から吸収するのですが、一方的に寄生しているのではなくて、木の方にも養分の吸収や病害の防止などでメリットがあるようで、いわば共生関係にあると言えます。生きた木がないと生えないということで、人工的に栽培するのが難しい種類です。これに対して、木と関係なく生える種類では、養分は土に含まれる有機物から吸収します。土の中には落ち葉や動物の死骸などが腐りかけたものや、それらが腐ってできた有機物が含まれていますから、これを利用しているわけです。この手のキノコは、例えば一般にマッシュルームと呼ばれているツクリタケのように、堆肥などを使って栽培することができます。
 もう一つの代表的なパターンが、木の幹や切り株、材木などから生えるものです。こちらの代表格はシイタケやヒラタケ(人工シメジとして売られている場合が多い)、それにサルノコシカケの仲間でしょう。木や材木の中に菌糸を伸ばし、時期が来れば表面にキノコを出すのです。シイタケなどは数日から数週間でしおれてしまいますが、サルノコシカケの中には数年にもわたって成長を続け、本当に人が座れる大きさになるものもあります。木の好みもいろいろで、針葉樹専門のものや広葉樹専門のもの、生きた木に生えるもの、枯れ木や材木に生えるもの、切り株を好むものなど様々です。これらの仲間は、先のマツタケなどとは違って、専ら養分をもらうのみです。生きた木に生えて枯らしてしまうものや、材木をボロボロにしてしまうものなどもあり、林業や果樹栽培などではどちらかというと嫌われ者になっています。
 木の材を構成している主な成分はセルロースとリグニンで、木に生えるキノコは、大抵このどちらかを主食としています。セルロースは植物の骨格を作る成分で、デンプンと同じようにブドウ糖がつながった高分子ですが、つながり方がデンプンとは違っているために人間が食べても消化できません。一方リグニンはベンゼン環に水酸基が付いたフェノールを基本とした高分子、ポリフェノールの一種で、セルロースが作る骨格の回りを埋めて補強しています。セルロースを養分とするキノコが生えると、褐色のリグニンが残りますから、材は褐色や黒褐色に変色します(褐色ぐされ)。逆にリグニンを養分とするキノコが生えると、セルロースが残って白っぽくなって来ます(白ぐされ)。キノコが生えて腐った木材の色を見れば、どちらのタイプかがわかるわけです。また、白ぐされの場合は骨格を作る繊維が残るのでスポンジ状に軟らかくなる傾向があり、褐色ぐされの場合は全体をつなぐ骨格が抜けてしまいますから、ポロポロと脆くなることが多くなります。
 地面や木の上以外では、動物の糞に生えるものや、別のキノコの上に生えるもの、松ボックリに生えるもの、などもあります。また、ちょっと変わったところでは、セミの幼虫やガのさなぎ、土中に住むクモなどに生える種類があり、「冬虫夏草(とうちゅうかそう)」の呼び名で知られています。冬の間は虫であったものが夏になって草に変わった、という意味で、虫が植物に変化したと考えられたのでしょう。魔法で人間が植物に変えられてしまうような昔話がよくありますが、それに近い神秘的なものを感じたからなのか、これらの仲間は不老長寿の薬とされたりもしています。


キノコの構造

 キノコの形・構造、ということになると、まず思いつくのはマツタケ型の傘と茎(植物の茎とは役割が違いますから、「柄」と呼んだ方がいいかもしれません)のあるタイプでしょう。子供にキノコの絵を描かせれば、99%この形を描くと思います。その中でも、傘が山形のもの、饅頭型のもの、平らなもの、じょうご型のものなどいろいろありますが、よくよく見れば、傘と茎で終わりというわけではありません。もっと色々な特徴的な部分を持っている種類もたくさんあります。特にテングタケの仲間には、ほぼフル装備と言えるような種類が多くありますから、この形を見てみましょう。
 図2が典型的なテングタケの仲間の外形です(あくまでも模式図ですから、色などの細かいところは適当)。傘と茎があるのは当然ですが、傘の上にはイボがあり、茎の上の方にはツバが、下の部分にはツボと呼ばれる袋があります。

図2

図2 フル装備のキノコ


 このような構造は、キノコが生長する過程で自然にできて来るものです。その様子を図2の下側に示しておきました。キノコのでき初めでは、菌糸が集まって卵のような塊ができ、この卵の中に傘や茎になる部分が作られます。やがて中身が成長して卵の上部を突き破り、傘と茎が姿を現しますが、この時、破れた卵の破片が傘の上にイボとして残り、卵の残りの部分は茎の下部でツボになります。傘は初めは閉じており、傘の周辺は茎にくっ付いていますが、成長が進むと閉じていた傘が開いて来ます。ここで傘の周辺部と茎とをつないでいた膜が破れて、茎にツバとして残るのです。
 もちろん全てのキノコがフル装備というわけではありません。もともと卵状の塊を作らない種類もありますし(当然、卵由来のイボやツボはできません)、ツバやツボが脱落してなくなってしまうものもあります。また、同じツバでも、膜状でわかりやすいものもあれば、綿毛状のクズがわずかに残るだけのものもあります。それでも、ツバを持っている種類は結構多くて、身近なシイタケやマツタケにも不完全ながらちゃんとありますから、注意してみてください。
 普通に見られるキノコの形としてもう一つの大きなグループは、茎を持たず、木の幹などに傘で直接付いているサルノコシカケのタイプです。こちらも細かく見ればいろいろな形があり、上から見て半円形のもの、扇形のもの、横から見て薄板状のもの、くさび型のもの、コブ状のものなどが見られます。中には端の方に短い茎を持つものや、傘らしきものを作らず、コケのように木に張り付く種類もあります。

 普通にキノコと言えば、上に挙げたマツタケ型かサルノコシカケ型になるのでしょうが、これだけではありません。このような普通の形ではなく、奇妙な形のものがいろいろあるのです。
 担子菌の中では、ショウロやホコリタケ(キツネノチャブクロ)などで有名な「腹菌」と呼ばれる仲間に、「何、コレッ!」というような妙な形のキノコがたくさんあります。一つは、ショウロのような玉型のキノコです。色も形も大きさも様々で、白いもの、茶色いもの、まん丸なものやいびつな形のもの、1cmにも満たない小さなものから、バレーボール大のものまであります。どれも内部に胞子ができ、成熟すると皮が破れたり、てっぺんに孔が開いたりして胞子を飛ばすのです。ちなみに、高級食材として有名なトリュフ(チョコレートではない)はショウロに似てはいますが別種で、子嚢菌の仲間です。腹菌の仲間にはこの他にも、図3に示したような面白い形のキノコが目白押しです(どれも初めは玉型で、その中からこれらの形のキノコが出て来ます)。ある程度知識がなければ、とてもキノコの仲間だとは思えないような姿のものも多いので、実際に見つけると、けっこう感動しますよ。

図3

図3 異型のキノコいろいろ


 ホウキタケやソウメンタケの仲間も、名前から想像できる通り、担子菌の中では面白い格好をした種類です。また、子嚢菌の仲間にも妙な形のキノコがたくさんあります。図3にはこれらの例も示していますが、このように、茶碗型や棍棒型のもの、ラッパ型のもの、シャモジ型のものなど、これまた多種多様です。


胞子ができる部分も様々

 キノコの役目は胞子をばらまくことですから、当然ながらその体のどこかに胞子ができるはずです。それはどこでしょうか。
 既に図1に示したように、マツタケやシイタケなどでは傘の裏側にヒダがあり、このヒダの表面に胞子ができます。サルノコシカケの仲間でも、カイガラタケなどではマツタケと同じようなヒダを持っており、やはりここに胞子を作ります。しかし、胞子ができる部分は必ずしもヒダとは限りません。大部分のサルノコシカケはヒダではなく、管孔と呼ばれる孔を作り、その内側の壁に胞子を作ります。逆にマツタケ型のキノコの中にも、イグチの仲間のように管孔を作るものもあります。さらに、ヒダでも管孔でもなく、たくさんの針状のものをぶら下げる種類もありますし、キクラゲのようにツルツルの平面になっている例もあります。また、管孔と言ってもその口が細長く伸びて、半分ヒダのようになるものもあれば、逆にヒダが隣どうしでつながって脈状になり、ちょっと孔っぽく見えたり、管孔の縁がギザギザになって針状になったり、と様々な変形があります(図4)。

図4

図4 胞子ができる部分の形いろいろ


 このようなヒダや管孔を作る利点が、表面積を稼ぐことにあることは明らかでしょう。同じ大きさのキノコでたくさんの胞子を作ることができるわけです。高度に進化した形、と言えるかもしれません。一方、キクラゲの仲間や多くの子嚢菌ではヒダや管孔がないものが多く、体の一部(茶碗型の内側など)、あるいは全体の表面に胞子を作ります。表面積という点では不利ですが、中には胞子を作る部分が平坦ではなくてシワが寄ったようになっているものもあります。ヒダができる一歩手前、といったところでしょうか。
 ちょっと変わっているのが腹菌の仲間です。この種のキノコでは「腹」の中に胞子ができるのが特徴で、玉型のキノコでは、お腹の中全部を胞子で満たすことで量を稼いでいます。また腹菌の中には、図3にいろいろな形を示したように、最終的に玉の中からキノコを伸ばすものがあります。そこだけを見れば図2のテングタケなどの担子菌と同じように見えますが、担子菌がキノコを伸ばした後で胞子を成熟させるのと違って、玉の中で胞子の成熟を終わらせてから異型のキノコを伸ばします。つまり胞子を完成させるのは、あくまでも「腹の中」なのです。このタイプの腹菌は、伸ばしたキノコの頭部分(つまり胞子が付いた部分)のベタベタした粘液からくさい臭いを出します。この臭いでハエなどを呼び寄せて胞子を運んでもらうことで、ばら撒く効率を上げているのです。


キノコの生活環

 キノコの生活環と言うと、胞子が発芽して菌糸を伸ばし、やがてキノコを作って胞子を撒いて・・・・・、というパターンの繰り返し、と思われるかもしれません。確かに、一番簡単に言えばこうなるのですが、その過程には結構複雑な要素が隠れています。他の動植物などとは違った、菌類独特の有性生殖です。細かい点は菌類の種類によっていろいろと違っていますが、そこは目をつぶって、大まかにその特徴を見てみると、およそ図5のようになります。

図5

図5 キノコの一生


 それでは、赤丸の番号順に見て行きましょう。
(1)胞子:まずはこれです。種類によって大きさや形はいろいろですが、だいたい5〜10μm前後のものが多いようです。
(2)胞子の発芽:胞子から菌糸が伸びます。菌糸は細長い細胞が一列につながって糸状になったものです。
(3)菌糸の成長:菌糸の細胞が分裂を繰り返して大きな集団を作りますが、実はこれには性別があります。見た目には区別はつきませんが遺伝子レベルでは違っており、普通の動植物と同じようなオス、メス2種類のものや、4種類の性別を持っているものなどがあります。細胞分裂を繰り返してできた塊は、もちろん同じ性別です。
(4)別種の菌糸と遭遇:ある程度成長した段階で違う性別の菌糸が出会うと、そこで接合が起こります(4種類の性別を持つものでは、組み合わせによっては接合できないこともあります)。
(5)菌糸の接合:2種類の菌糸が接合すると、核を2個持った新しい細胞ができます。2核細胞です。核が2個あると聞くと妙な感じがするかもしれませんが、それは普通の動植物の感覚での話。細胞間の仕切り(隔壁)に孔が開いていて中身が移動したり、そもそも隔壁すらない多核体があったりする菌類の世界ですから、核が2個あるくらいは、別に不思議でもなんでもありません。
(6)2核細胞の成長:今度は接合でできた2核細胞が普通に分裂して、どんどん増殖して行きます。
(7)キノコの形成:2核細胞の菌糸が大きく成長し、やがてキノコ(子実体)を作ります。ですから、キノコの体は2核細胞でできていることになります。シイタケの裏側のヒダも、サルノコシカケの硬い殻も、全て2核細胞から成る菌糸が集まって作られたものなのです。
(8)胞子の基になる細胞の形成:キノコの特定の部分に、胞子を作る器官が準備され始めます。子嚢菌ならば子嚢、担子菌ならば担子器の原型です。ここに胞子の基になる細胞ができるのですが、当然ながらこの細胞も初めは2つの核を持っています。
(9)2つの核の融合:ずっとペアで来た2つの核が、ここで遂に一つになります。核の融合です。この段階で2種類の遺伝子が初めて本格的に混じり合うのです。
(10)減数分裂:いよいよ胞子を作る準備が整いました。融合した核を持つ細胞が分裂します。
 ここで、生物の時間に習った細胞分裂の話を思い出してください。普通の細胞分裂(体細胞分裂)では、遺伝情報を持った染色体がそっくりそのまま複製されて、新しくできた2個の細胞に分配されます。元と全く同じ細胞が2個できるのです。ところが精子や卵子などの生殖細胞ができる時には染色体が複製されませんから、染色体の数が半分の細胞ができます。これが減数分裂です(厳密に言うと、減数分裂では2回の分裂が連続して起こり、そのうちの1回で染色体の複製が起こりません。その結果、減数分裂を終えると、半数の染色体を持った生殖細胞が4個できます)。この半数の染色体を持った生殖細胞どうしが受精によって一つになって、また元の数の染色体を持った普通の細胞が作られるのです。
 それではキノコの場合はどうかと言うと、実は元の胞子や菌糸の時代が染色体数が半分の状態、と考えられます。普通の動植物では、染色体数が半分になるのは生殖細胞の間だけですが、キノコの場合は、その一世代の大部分を、染色体数が半分の状態で過ごすのです。(5)〜(8)の間は核が2個ですから、染色体の数だけは足りていますが、やはり本来の状態ではありません。核が融合する(9)の段階になって初めて本来の(と言っても、どっちが本来の姿なのかよくわかりませんが)数の染色体を持つ核ができることになるのです。ところがこれがすぐに減数分裂してしまいますから、染色体数はまた半分に戻ります。このようにキノコの世界では、染色体がフルに揃うのは、核が融合してから減数分裂するまでのほんのわずかの間だけなのです。(この点ではコケ類とよく似ていますね)
(11)胞子の形成:減数分裂で作られた染色体数が半分の細胞が、やがて胞子になります。この胞子の染色体には、(5)で接合した2種類の菌糸からの染色体、つまり遺伝子が混ざっており、オス、メスの区別もあります。途中の過程は違いますが、普通の動植物の有性生殖と同じような結果になるわけです。

 以上が有性生殖の典型的なパターンですが、この他に、同じ細胞を胞子として切り離してどんどん増えて行く無性生殖もあります。先に出て来た不完全菌などは専ら無性生殖ですし、子嚢菌などでも、状況に応じて両方を使い分ける種類が多く見られます。ただし、人目を引くような大きなキノコを作る場合は、ほとんどが図5のような増え方をすると思ってよいでしょう。


毒キノコの話

 このサイトはキノコの種類を解説することを目的にしているわけではありませんが、やはり「キノコ」の話をするからには「毒キノコ」のことに触れないわけには行きません。毒キノコの話は、図鑑やネット上の記事にもいろいろと書かれており、重複する部分も多くなりますが、今でもキノコ中毒がけっこう起こっている状況を考えると、くどいようでもここで再度紹介しておくことはムダではないでしょう。
 毒キノコと食用キノコとを一発で見分けられる便利な方法があればよいのですが、そんなものは存在しません。そもそもキノコの毒というのは一種類ではなく様々な種類のものがありますし、キノコの側から言っても、何も人間を中毒させようと思って毒成分を持っているわけではありませんから、毒キノコに共通の特徴があるはずもないのです。にもかかわらず、おそらく何とか毒キノコを見分ける方法はないかという願望から生まれたのでしょう、「毒キノコの見分け方」なるとんでもない迷信が広まってしまったのです。
 昔からの言い伝えには、ちゃんと科学的な根拠のある有用なものが少なくありません。しかし、こと毒キノコに関する限り100%デタラメですから、まずは迷信を捨てることから始めなければなりません。捨てるべき主な迷信は、次のようなものです。
 ・茎が縦に裂けるキノコは食べられる
 ・毒キノコは派手な色をしている
 ・ナスと一緒に煮れば毒が消える
 ・銀のスプーンの上で加熱して黒くなるものは毒
 ・虫が食べているキノコは食べられる
どれも例外がある、というよりも、当てはまるものがほとんどない、というのが本当のところです。こんな迷信を信じていたら、命がいくつあっても足りません。
 こうなると、毒キノコを見分けるには一個一個覚えて行かなければならない、ということになりますが、実際に完璧に見分けようと思ったら、そうするしかありません。専門家ならともかく、一般の人にはちょっと無理ですね。ですが、完璧ではないにしても、キノコ中毒のリスクを減らす有効な方法はあるのです。それは、命にかかわる猛毒キノコや中毒例の多いキノコの特徴を覚えることです。以下に代表例を挙げておきましょう。

猛毒キノコ3羽ガラス
 日本で命にかかわる猛毒キノコと言えば、「タマゴテングタケ」「シロタマゴテングタケ」「ドクツルタケ」の3つです。これらはテングタケの仲間ですが、見た目の派手さは全くなく、白っぽい、おとなしい感じのキノコで、茎も完全に縦に裂けます。誤って食べると、1、2本でも危ないと言われています。これらを見分ける最大の特徴は、茎の根元にはっきりしたツボを持つことです。そこで、「ツボのあるキノコは食べない」ようにすれば、これらで中毒することはなくなるのです。この「ツボ」を押さえる方法を使えば、さほど毒性は強くはありませんが「テングタケ」や「ベニテングタケ」も一緒に除くことができます(ただし上の3種ほど完璧なツボではなく、リング状の痕跡程度)。もちろん、ツボがあっても食べられるキノコはたくさんありますが、これらを食べるチャンスを逃すとしても、中毒するよりはマシなのでは?

中毒例のチャンピオン
 日本で一番中毒例が多いとされるのが「ツキヨタケ」です。木に生えるキノコで、ちょっと見はシイタケに似ていて、端の方に太くて短い茎があります。誤って食べた人のほとんどは、シイタケや別の有名な食用キノコであるムキタケなどと間違ったのだと推測されます。前の3種ほど強烈な毒性を持っているわけではありませんが、中毒例が多いということで要注意です。見分け方の急所は、縦に二つ割にしたときに、傘と茎の境目あたりに紫色〜黒紫色のシミがあることです。シイタケに似たキノコを見つけたら縦に裂いてみて、「紫色のシミのあるキノコは食べない」ようにしてください。
 ツキヨタケは名前の通りヒダに発光性があり、暗闇でボゥっと光るという特徴もあるのですが、この特徴は明るいところでは使えませんから、やはりポイントは内部のシミです。

食用キノコにそっくりな猛毒キノコ
 これはちょっとやっかいな例で、食用キノコであるクロハツにそっくりな「ニセクロハツ」です。どちらも黒っぽい、成長するとややじょうご型になるキノコで、外見からは簡単に区別することはできません。クロハツと間違えて食べて中毒死した例が新聞に載ったこともあります。さらに、クロハツモドキという、これまた食用になる類似種があり、話をややこしくしています。見分けるポイントは、傘やヒダに傷を付けて内部を空気に触れさせた時の変色の仕方です。クロハツやクロハツモドキは初め赤くなり、最後は黒くなりますが、ニセクロハツは赤のままで止まります。というわけで、クロハツに似たキノコでは「傷を付けた時に色が赤くなったまま黒くならない場合は食べない」のが賢明です。ついでに言っておくと、クロハツやクロハツモドキも生で食べると多少中毒することもあるそうですから、要注意。まあ、キノコを生食する人はあまりいないとは思いますが。

註:最近ではクロハツは毒キノコとされることが多くなりました。

シメジに似た毒キノコ
 シメジといえば食用キノコの代表選手ですが、これにちょっと似ている毒キノコがいくつか知られています。特に注意が必要なのは、シメジのように集団で生えるのではなくて1本ずつポツンと生えることからイッポンシメジと呼ばれる仲間です。代表格は「クサウラベニタケ」で、名前の通り、傘の裏のヒダが紅色(「肉色」と表現されることが多い)がかっているのが特徴です。シメジに似たキノコでは、「ヒダが赤っぽく見えたら食べない」方がよいでしょう。これにも例外はありますが、この際、無視です。

その他
 以上の4つ、タマゴテングタケ類、ツキヨタケ、ニセクロハツ、イッポンシメジ類を押さえておけば、キノコ中毒の危険性は相当減るはずですが、その他では、竹やぶなどに好んで生える茶褐色の「ヤブシメジ(ドクササコ)」(死ぬことはないようですが、手足の指先が何日にもわたって強烈に痛むそうです)、毒抜きして食用にされることもある「シャグマアミガサタケ」や「カキシメジ」などの中毒例が多いようです。機会があったら図鑑などで特徴を見ておくとよいでしょう。

 このように、確かにキノコの仲間には毒を持つものも多いのですが、だからと言ってむやみに怖がる必要はありません。いくら猛毒といっても、触っただけで中毒するようなことはありませんし、ちょっとかじって味見するぐらいは大丈夫です(たばこのニコチンの方がよっぽど怖い)。キノコを見つけたら、気持ち悪がらずに、よく見て、触ってみましょう。色や形も面白いですし、中にはすごい薬効を持っているものがあるかもしれませんよ。

註:最近になって急に報告例が多くなってきた「カエンタケ」だけは例外です。触っただけでかぶれてしまう猛毒菌ですから、これだけは触らないように。



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