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● 光学機器の話 ●
光を操る機械
いろいろな研究開発をやっていると、その時々で光学機器のお世話になります。ルーペや顕微鏡は当然のこと、資料作りや発表にはカメラや映写機が欠かせませんし、光を使った測定装置の中には複雑な光学系がぎっしりです。これらの光学機器の細かい説明をここでするつもりはありません。しかし、私自身が昔からレンズやプリズムが大好きで、望遠鏡やカメラなどをよく手作りしていたこともあり、普通は多分気に留めないでしょうが、よく考えてみるとおもしろそうな、いくつかのトピックスを紹介してみようと思います。
光学機器は光を操る機械。その基本は、「光を反射する」ことと「光を曲げる(屈折する)」ことです。ほとんどの簡単な光学機器は、この2つの組み合わせで事足りるのではないでしょうか。「反射」のための道具が鏡でありプリズムです。また、「屈折」のための道具が、言うまでもなくレンズです。まず初めに、これらの基本単位をちょっとだけ見ておきましょう。
光学機器の中の鏡
まず鏡です。みなさんの家にも鏡はありますね。たいていはガラス板の裏側に銀メッキしたタイプだと思います。でも、これをそのまま光学機器に使うとちょっと具合が悪いのです。なぜでしょう・・・。鏡での光の反射は主に裏側のメッキ面で起こりますが、実はガラスの表面でも少し反射するのです。表面と裏面ではガラスの厚さだけ距離が違いますから、その分だけずれた2重の反射になってしまうのです。そこで光学機器の中では、裏面ではなく表面にメッキした鏡が使われます。この場合、空気に触れると黒ずんでしまう銀では具合が悪いので、たいていはアルミが蒸着されています。反射式の天体望遠鏡の鏡もそうです。
プリズムの全反射
鏡も反射の道具ですが、より完全に反射させようとする場合にはプリズムが使われます。いわゆる全反射です。念のために全反射の原理を見ておきましょう。図1の上側は空気で、下側はガラスであるとします。(1)のように上からまっすぐに入ってきた光はそのまま(1)'のように直進します。これを(2)→(3)→・・・と傾けて行くと、それぞれ(2)'(3)'・・・のように屈折します。そして(7)のように境界すれすれに入ってきた光はガラスの中で(7)'の方向に進みます。ここで、逆にガラスの側から光を入れることを考えます。光は可逆的ですから、(1)'→(1)、(2)'→(2)、(3)'→(3)、・・・(7)'→(7)、となるわけですが、それでは(7)'よりも浅い角度で入ってきた(8)'はどうなるでしょう。この光はガラスから出ることができませんから、仕方なく全部戻って来てしまいます。これが全反射の状態です。普通のガラスでは、図のθの角度がおよそ40度以上になると全反射しますので、プリズムの45度の面では全反射になるのです。
図1 全反射のしくみ
プリズムによる全反射の方が鏡による反射(表面反射)よりも効率がよいのですから、全部プリズムにすればよさそうですが、実際はそうはいきません。プリズムによる反射では光がガラスの中を通り抜けますから、ガラスに吸収されてしまうような光(紫外線や赤外線)には使えないのです。また、可視光線はガラスをよく通過しますが、それでも100%ということはありませんし、ガラス中の不純物や歪みによってもロスしますので、このあたりを気にする場合には鏡を使うことになります。
レンズの基本---焦点と光路図
レンズについて詳しく説明していると、きりがありませんので、ここでは焦点距離の話と光路図の話だけしておきましょう。凸レンズの焦点距離はご存知ですね。平行光線を集めた時に一点に集まる点(焦点)とレンズとの距離のことです。凹レンズでは光は広がりますから、広がる光を逆方向に延長して、一点に集まる点が焦点です。でもレンズには厚みがありますね。いったいどこから計ればよいのでしょう。レンズの中心? 片面が平らなレンズだったらどうしますか? 結構ややこしいでしょう。細かいことは抜きにして簡単に言うと、レンズを通過した光線を元の方向に延長して、レンズに入る前の平行光線(の延長)と交わるところを主点とし、その主点と焦点との距離を焦点距離と言います。図2を見てください。図2aの普通の凸レンズや凹レンズならば主点はレンズの中心附近に来ます。ところが、図2bのようなレンズでは、主点はずいぶん偏ったところに来るのです。この考え方を延長すると、図2cのように複数のレンズを組み合わせた場合の主点や焦点距離もわかります。おもしろいのは、主点がレンズの外に出る場合があるということです。図2dと図2eはその例で、このように凹レンズが入ることで主点が外に出てしまうのです。
図2 いろいろなレンズの主点と焦点距離
顕微鏡などでは観察対象を対物レンズの焦点附近に置くのが普通です。ということは、対物レンズと観察対象との距離は、対物レンズの焦点距離程度になるということです。この距離が短いと、顕微鏡をのぞきながら作業する、ということがほとんど不可能になってしまいます。かといって、対物レンズの焦点距離を長くすると、望みの倍率が得られません。そこで、図2dのレンズの登場です。このようなレンズを使うと、対象物とレンズとの距離をレンズの焦点距離よりも長くすることができるのです。よくカタログなどで「ワーキングディスタンスが長い」ということを売り物にしているレンズがありますが、その原理はこういうことなのです。
レンズを使った光学機器を考える時には、光路図を描くことが欠かせません。逆に言うと、光路図が描けさえすれば、厳密な点はともかく、ほとんどの光学機器の働きはわかってしまいます。そこで、中学レベルの話ですが、光路図の描き方をおさらいしておきましょう。先ほど話題になった主点云々の細かい話は無視して、ポイントは、
(1)光軸に平行な入射光は焦点を通る
(2)レンズの中心を通る入射光は直進する
(3)手前の焦点を通る入射光は光軸に平行に進む
という3点だけです。この原則に沿って物体の1点から出た光がどうなるかを追って行けば、それでOKです。もうひとつ言えば、1点から発した(1)(2)(3)の3本の光線は結局1点に集まりますから、実際にはこのうちの2本を描くだけで十分です。
ただしこの法則は、対象物体がずっと遠くにある場合には少々具合が悪くなります。そんな横に長い図を描くのは無理ですから。そこでこのような場合には、遠くの点から来た光はほとんど平行になる、ということを利用して、次の(4)を使います。
(4)互いに平行な入射光は焦点面に集まる
焦点面というのは、光軸に垂直で、焦点を含む面のことで、光軸に平行な光線ならば焦点に集まりますが、斜に入って来た光は、光軸からずれた焦点面のどこかに集まるのです。
試しに1枚レンズでやってみましょう。焦点よりも外側の物体に対しては、本当に光線が集まりますから、図3a)のように実像ができます。実像のところにスリガラスなどを置けば像が見えますし、フィルムを置けば写真が取れます。一方、焦点よりも内側の物体に対しては光は集まらず、実像はできません。その代わり右側からのぞくと、あたかも図3b)の破線で示した方向から光が来たかのように見えることになります。これが虚像で、この性質を利用したのが虫メガネです。
物体がずっと遠方にある場合が図3c)です。当の物体を図示することはできませんが、はるか左方に巨大な矢印があると思ってください。矢印の先端から四方八方に出た光の一部がレンズに入りますが、その時点では、光はほとんど平行になっています。ですから、上の(4)に従って、光は焦点面に集まり、ここに矢印の先端の像を作ります。矢印の他の部分から出た光も同様で、レンズに入る角度が少しづつ違いますから、それぞれ少しづつずれた場所に集まり、全体として焦点のところに矢印の実像ができるのです。
図3 光路図の描き方
簡単すぎますね。それでは望遠鏡の場合に応用してみましょう(図4)。対物レンズが実像を作る部分は図3c)と全く同じです。そして今度は、その実像を元にして接眼レンズで虚像を作れば一丁上がりです。望遠鏡をのぞく時に接眼レンズの部分を出し入れしてピントを合わせますが、これは筒の長さを変えて接眼レンズと実像が図3b)の位置関係になるように調節しているのです。
図4 望遠鏡の光路図
望遠鏡と顕微鏡
光学機器を理解するための道具を手に入れたところで、こんなことを考えてみましょう。それは、「望遠鏡と顕微鏡の違い」についてです。「そんなことはわかりきっているではないか」と言われるかもしれません。でも、本当にそうでしょうか。一方は遠くの景色などを拡大する機械で、もう一方は近くの物を拡大する機械。確かに用途は全く違いますが、どちらも対物レンズと接眼レンズを筒の両端に付けただけのものです。違いはどこにあるのでしょう。
答えは、筒の長さです。とは言っても見た目の長さではなく、レンズの焦点距離と比較した長さのことです。もう一度図4をみてください。対物レンズと接眼レンズとの距離は、ピントが合った状態で、ほぼ両方のレンズの焦点距離を合わせた長さになっています。望遠鏡は遠方の物体を見るようにできていますので、実像は対物レンズの焦点附近(焦点よりもほんのちょっと遠く)にでき、接眼レンズで虚像を作るにはその焦点附近(焦点よりもほんのちょっと近く)に実像を置く必要がありますから、これは当然の結果です。それでは顕微鏡はと言うと、光路は図5のようになります。
図5 顕微鏡の光路図
顕微鏡の筒の長さは、対物レンズと接眼レンズの焦点距離を合わせたよりもずっと長くなっています。観察の対象物は対物レンズのすぐ近く(と言っても焦点よりは遠く)にありますから、その実像は焦点からかなり離れた位置にできます。そのため、望遠鏡よりもずっと長い筒が必要になるのです。
顕微鏡では望遠鏡と違って筒の長さは固定されていますから、ピントを合わせるために、筒全体を動かして物体と対物レンズの距離を変え、実像ができる位置を調節します。では、望遠鏡のように筒の長さを変える方法はダメでしょうか。ピントを合わせるだけならば、筒の長さを変える方法でもかまいません。しかし、別の問題が起こります。筒の長さを変えると倍率が変わってしまうのです。図6を見てください。これは図5と同じレンズを使った顕微鏡ですが、筒を長くしています。図5と比べて実像が大きくなっていることがわかりますね(対物レンズと物体との距離も少し短くなっています)。試しに、顕微鏡を使う機会がありましたら、接眼レンズを奥まで差し込まずに少し引き出してのぞいてみてください。倍率が上がるのがわかると思います(もちろん、ピント合わせのやり直しは必要ですよ)。
図6 顕微鏡の筒を長くすると
このように毎回倍率が変わるのでは困りますから、顕微鏡では筒の長さを固定しているのです。顕微鏡では対物レンズにも倍率が刻印されていますが、それは筒の長さが決まっているからこそできることです。もし、ある顕微鏡の対物レンズをはずして長さの違う他の顕微鏡につけたら、刻印されている倍率はウソになります(接眼レンズの倍率は虫メガネと同じですからどこに行っても変わりません)。ここで余談ですが、上の説明でわかるように、顕微鏡は筒を長くすれば、数字の上ではいくらでも倍率を上げることができるのです。もちろん、あまり倍率を上げすぎると、光の波としての性質が現れて像がボケますし、そこまで行かなくても、レンズの性能から来るアラが目立って来て使いものにならなくなります。
倍率という魔法の数字
さて、ここで気になることが出てきました。それは望遠鏡の倍率です。顕微鏡では大きな実像を作る対物レンズの倍率と、それを虫メガネの要領で拡大する接眼レンズの倍率を掛け合わせれば済みます。そして、目の前の物体がその分だけ大きく見えます。それでは遠くのものを見る望遠鏡の場合はどうでしょうか。例えば天体望遠鏡で月を見たとしましょう。元の月の直径は3500kmですが、望遠鏡の筒の中にできる実像の直径は、焦点距離80cmの対物レンズを使った場合、たったの7mmで、これを10倍の接眼レンズで拡大しても7cmにしかなりません。これで拡大と言えるのでしょうか。実は言えるのです。月の直径は確かに3500kmですが、月までの距離は38万kmもあります。直径3500kmの物を38万km彼方に置いた時と、直径7mmの物を20〜30cmの距離に置いた時でどちらが大きく見えるかを比べると、後者の方が3倍も大きいのです。これをさらに接眼レンズで拡大してやれば、もっと大きく見えることになります。顕微鏡の場合には、みかけの大きさも何も、実物が目の前にあるのですから、実物が何倍に見えるかで倍率を考えればよいわけですが(現実には「見やすい」位置、つまり目から25cmくらいの位置に置いた実物の大きさとの比較になります)、望遠鏡では遠くから見た時のみかけの大きさとの比較で倍率を考えるわけです。
顕微鏡では、まず筒の長さを決めて、その筒の長さに合うように、対物レンズと物体との距離を変えて実像ができる位置を調節していました。望遠鏡の場合は物体までの距離は「遠い」と決まっているので、実像は必ず対物レンズの焦点附近に、決まった大きさにできます。実像の大きさを決めるのは、唯一、対物レンズの焦点距離のみです。図7のように、焦点距離の長い対物レンズほど大きな実像が得られます。
図7 焦点距離の長い対物レンズは倍率が大きい
一方、接眼レンズは虫メガネですから、焦点距離が短いほど倍率は高くなります。結果だけ言うと、望遠鏡の倍率は、対物レンズの焦点距離を接眼レンズの焦点距離で割った値になります。
このように見てくると、望遠鏡の場合でも、対物レンズの倍率と接眼レンズの倍率をそれぞれ決めることができそうです。でも実際に、顕微鏡のように倍率が刻印された対物レンズや接眼レンズは見たことがありません。それはなぜでしょうか。理由はいろいろありますが、その一つが、物体までの距離によって倍率が変化する、ということです。物体までの距離が近くなると、実像の位置は対物レンズの焦点から次第に遠く離れて行き、しかも大きくなりますから、倍率も大きくなって来るのです(この時、筒は当然長くなります)。つまり望遠鏡の倍率というのは、無限遠方の物体を見た時にだけ成り立つのであって、近くの物体に対しては、その時の筒の長さも考えて顕微鏡の扱いをしなければならない、ということです(もっとも、望遠鏡の筒はそんなに長くは伸びないようになっていますから、あまり近くのものにピントを合わせることはできませんが)。望遠鏡と顕微鏡の違いは筒の長さだと書きましたが、それは望遠鏡で遠方の物体を、顕微鏡ですぐ近くの物体を見た時に結果的にそうなるという話であって、実は本質的な違いではなかったのです。化学の実験などで数十cm離れたところの目盛りなどを読む時に使うカセトメーターという道具がありますが、これなどはまさに望遠鏡と顕微鏡の中間と言えるでしょう。
ひとつだけ付け加えておきますが、倍率というのは望遠鏡や顕微鏡の性能の基準にはなりません。倍率は接眼レンズの焦点距離を短くすれば上げられますし、顕微鏡に至っては筒を長くするだけでも稼げます。重要なのは、いかに多くの光を効率よく集められるか、ということであり、これを決めるのはレンズの直径、特に対物レンズの直径なのです。倍率だけ高いオモチャのようなシロモノがたくさんありますから、くれぐれもご注意を(オモチャと割り切って使うなら構いませんが)。
カメラはカメラ
一般的になじみの深い光学機器といえば、やはり
カメラでしょう。最近はデジカメが主流になっていますが、光学的な仕組み自体は、1839年にフランスのダケールがダケレオタイプを発明して以来、ほとんど変わっていません。カメラはやはりカメラです。図3の実像のところにフィルムなり受光素子なりを置けばよいだけです。焦点距離が長いレンズを使えば実像は大きくなりますから、これが望遠レンズ、焦点距離の短いレンズを使えば実像は小さくなりますが広い範囲が写しこめるので、これが広角レンズ、というわけです。(図8)
図8 望遠レンズと広角レンズ
レンズの焦点距離を50mmとすると、10m離れた大きさ1mの物体の実像は約5mmになります。35mmサイズのフィルムに写したとすれば、フィルム画面の7分の1ということですね。これを普通サイズ(L版)の印画紙に焼いてみましょう。するとフィルム上で5mmだったものが約2cmの大きさに仕上がります。この絵を20cm離して見た時のみかけの大きさは、1mの物体を10m離れて見た時とほとんど同じです。つまり、焦点距離50mmのレンズを使って撮影すれば、感覚的に実際の景色と同じような写真が撮れるということです。そのため、焦点距離50mmのレンズは標準レンズと呼ばれ、それより焦点距離が長いものが望遠、短いものが広角、ということになっています。
基本は同じなんですが、カメラには普通のコンパクトタイプの他に、ちょっと高級な一眼レフがありますね。なぜこれを一眼レフと呼ぶか知っていますか? 「一眼」は「目が1個」、「レフ」は「レフレックス」の略で「反射」の意味ですから、「目が1個の反射型カメラ」ということになります。最近は見かけなくなりましたが、「二眼レフ」タイプのカメラが昔はありました。2個の目(レンズ)が縦に並んでいて、下の目が撮影用、上の目がファインダー用です。撮影用と全く同じタイプのレンズをファインダー用に使うことで、実際に撮れる(予定の)像と同じ映像をファインダーで確認できるのが売りです。でも目の位置が少しずれていますから、実際には映像も少しズレるんですね。特に近くの物を撮る時には大問題でした。同じことはコンパクトカメラのファインダーにも言えます。こちらはレンズも違いますからもっと差が出ます。そこで、同じ1個のレンズでファインダーも兼ねさせようというのが一眼レフです。フィルムの前に鏡を置いて、ファインダーをのぞく時にはこの鏡を使ってのぞき窓に像を導き、シャッターを切った瞬間に鏡が跳ね上がるようになっています。(図9)
図9 一眼レフのしくみ
一眼レフで気になるのが、ボディーの上のとんがったヤツです。この中には5角形の屋根型プリズム(ペンタダハプリズム)が入っています。レンズを通ってきた像は上下左右がひっくり返っており、鏡で反射することで上下は戻っていますが、左右はまだ逆のままです。これを元に戻すのがペンタダハプリズムです。ここに普通の鏡を置いただけでは、せっかく元に戻した上下がまたひっくり返ってしまい、一方、左右は逆になったまま、という困ったことになってしまいます。そこで図9のように反射させて上下を正しくします。それでは左右はどうしましょうか。実は図9の赤色の面に秘密があるのです。
一般的にダハプリズムと呼ばれるプリズムの基本は、直角に配置された2枚の鏡面です。鏡を2枚、図10のように直角に立ててみてください。すると右側から入った光は左の鏡から、左側から入った光は右の鏡から出てきて、普通の1枚の鏡の時と左右が逆になることがわかります。この鏡の正面に立つと、鏡の中の自分は左右が逆になっていません。つまり、鏡の前の人が右手を上げれば、鏡の中の人も右手を上げるのです。ですから、図9のように下から来た光を横に反射する場合には、普通の鏡では左右はそのままですが、この鏡では左右が逆転します。この2枚の鏡の働きを1個のプリズムに組み込んだのがダハプリズムで、図9の赤色の面がこの形になっているのです。一眼レフではこれを使ってファインダーで見える像を正しい向きに直しています。
図10 左右が逆転しない不思議な鏡
ちょっとおもしろいレシピ
よく漫画などでは、撮影中のビデオカメラのレンズにハエが止まって画面に巨大バエが出現、などというシーンがあります。これが全くのナンセンスであることはおわかりですね。レンズの直前にある物体は実像を作りませんから、ここに異物があっても、画像の一部が暗くなるだけです。ところが、ピントをずらして行くと、今までの画像がボケてくる代わりに、その異物の輪郭が少しずつ見えるようになります。これを利用すると、レンズの前に好きな形の孔を開けたカバーをかけることで、おもしろいピンボケ写真を撮ることができます。図11にその原理を示しました。例えば四角い孔を開けた紙を置いてみましょう。物体から出た光のうち四角く切り取られた部分だけがレンズに入ります。しかし実像の部分では光が1点に集まってしまいますから、途中の光の束の形がどうであろうと関係ありません。点は点でしかないのです。その結果、全体の光の量は減りますが、画像そのものには何の変化も現れません。ところが実像ができる位置からずれたところではどうでしょうか。光は1点に集まっていませんから、今度は四角い束の形が残るのです。ただし、あらゆる場所でこの四角いピンボケが重なりますから、全体としては何がなんだかわからなくなります。ここで、画像の中に明るい点(例えば街灯とか窓の明かりとか)があると、そこは周りよりも光が多いですから、明るい四角が目立つようになるのです。
図11 味のあるピンボケ写真
もうひとつおもしろい裏技があるので紹介しましょう。今度は光の回折を利用した方法です。初めのところで「反射」と「屈折」で事足りると書きましたが、光にはもう一つ、回折という性質があります。エッジ部分などで光が陰になる部分に回り込む現象ですが、光をスペクトルに分ける(虹を作る)ような場合を除いて、光学機器にとってはどちらかというと邪魔になる性質です。これを利用してやろうというわけです。方法は簡単で、さっきのピンボケ写真の時と同じように、四角形や五角形の孔を開けたカバーをレンズの前にかけて、強い光を放つ物(街の水銀灯など)の写真を撮るのです。ただし、今回はピンボケではなく、ちゃんとピントを合わせた写真を撮ります。すると、光を放つ対象物から、四角形の孔ならば4本の、五角形の孔ならば5本の光のスジが広がるのです。これは図12のように、四角形や五角形の辺の部分で、辺に垂直な方向に光が回折することによって起こります。天体望遠鏡にカメラを付けて星の写真を撮る時に、望遠鏡の対物レンズに五角形の孔を開けたカバーをかけると、子供の描く絵のような五角形の星の写真を撮ることもできるのです。
図12 光を星形に撮る
映写機はカメラの裏返し
カメラの話が出たので、映写機にも触れておきましょう。外部の景色の実像をフィルム上に作るのがカメラでしたが、逆にスライドなどの実像を外部のスクリーン上に作るのが映写機です。光路は、光の進行方向が反対なだけで、図8のカメラの場合と全く同じです(図13)。焦点距離の短いレンズでは大きな映像を、焦点距離が長いレンズでは小さな映像を投射できることがわかります。スライド映写機でも映画館の大型映写機でも変わりはありません。
図13 映写機の原理
ランプの前に置いたレンズはコンデンサーレンズと呼ばれ、広がって行くランプの光を集めて効率よくフィルムに当てる働きをします。光を集めるだけなので焦点距離などに特別な制約はありませんが、ただひとつ、スライドの位置にランプの実像ができてしまわないようにする必要があります。ここにランプの実像ができてしまうと、その実像を投影レンズでスクリーンに投射してしまいますから、本来の映像に、巨大なランプの像が重なって見苦しいことになります。オモチャの映写機などでは、コンデンサーレンズの代わりに、光を散乱させてランプの像ができないようにするためにスリガラスや油紙を置いたりしますが、全く省略してしまうこともあります。
映写機の原理を応用して、懐中電灯を使って面白い投影機を作ることができます。図14にその構造を示しておきました。
図14 簡単な投影機
レンズは虫メガネの玉でかまいません。外側の筒にレンズを取り付け、内側の筒には投射したいフィルムを仕込みます。例えば、矢印型に紙を切り抜いて赤いセロハンを貼ると、プラネタリウムで使うような赤い矢印の映像ができますし、リバーサルフィルム(ポジフィルムとも言います。普通の写真フィルムは色が反転したネガ像ですが、初めから正しい色のポジ像が得られます)で撮った自分の顔写真を貼れば、壁に自分の顔を映すこともできます(ちょっと心霊写真もどきでしょうか)。さらに内側にコンデンサーレンズを仕込めば完璧ですね。筒の長さは、フィルムからレンズまでの距離を、レンズの焦点距離からその1.5倍くらいの範囲で調節できるようにしておけば十分でしょう。普通の虫メガネの焦点距離は5cm〜10cm、といったところですから、外側の筒の長さも5〜10cm程度になります。
レンズを使った工作では、ひとつ注意することがあります。それはレンズに直接に接着剤を付けたりしない、ということです。レンズを固定する時は、図14のように、必ず固定用のリングで挟むようにしてください。レンズに接着剤を付けるとどうしても汚れてしまいますし、そこにカビが生えて、ガラスに傷がついてしまうこともあります。
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